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□ 短編小説 □

 『Dear……』

「はぁ」
もうこれで何度目の溜息だろうか。
彼、蒼一の表情は朝から浮かないものだった。
ソファーに腰掛け、いつもの習慣となっている朝の情報番組をつけてみれば、どの局も取り上げているのはバレンタインの話題ばかり。
それもそのはず、今日の日付は2月14日。まさにバレンタインデー当日なのだから。
適当にチャンネルを切り替えながら、ぼんやりとTV画面を眺めていた蒼一の手がふと止まる。
映っているのは、ちょっとした料理コーナーで作っている手作りチョコ。
アナウンサーらしい女性がなんとも言えないたどたどしい手付きで調理している。
その光景に、彼の脳裏に昨夜姉が帰宅してきた時の光景が思い出される。
昨夜、普段より遅く帰って来た姉の佳澄を出迎えた際にふと目に付いたもの。
それは開いたバッグの口から覗いた丁寧にラッピングされた箱のような物と、服の袖に僅かに付いた黒っぽいシミ。
ましてやその日はバレンタインデー前日。
それが何なのかぐらい彼にも想像は付いたものの、あえてそれを聞くのも野暮な質問だろうと訪ねる事はしなかった。
だが、ここ数年手作りなどしていなかった姉がなぜ急に?
単なる気紛れなのか、それとも……
「やっぱり、誰かにあげるんだろうなぁ、あれ……」
そんな事をつらつらと考えていた所へ、遅れて起きて来た姉、佳澄がまだ若干眠そうな顔付きでリビングへと現れた。
「あ、蒼一。おはよっ」
「ぁ、うん。おはよう」
自分が原因で弟が思い悩んでいるなどとは露知らず、佳澄は相変わらず明るい調子で声をかける。
「朝ご飯作ってくれたんだ」
「あぁ。何か早く目が覚めたから、ついでにね」
というより余り寝付けなかったんだけど、という言葉は飲み込み彼は答える。
朝食を終え、いつも通り仕事へと向う姉を見送ると、蒼一もまた大学へと向うべく家を後にした。

夕方、やはり先に帰宅していた蒼一は、何をするでもなく自室のベッドに横たわりながら、ぼぅっと手の中の物を見詰めていた。
それは、大学にて『義理』という名目で女子が配り歩いていた市販の小さなチョコレート。
偶然その場に居合わせた蒼一にも1つ回ってきた物だった。
彼にとって、このバレンタインデーという行事は然程関心の強いものではない。
しいて言うとすれば、幾つ貰ったかという事より、誰から貰ったかの方が大事である。
じゃあ一体、自分は誰から貰いたいというのか。
そんな考えを抱いた時、不意に頭を過ぎる姉の顔にハッとなり、蒼一は思わず起き上がる。
「何で、こんなに姉さんの事ばっかり考えて……」
これまで無意識の内に考えていたせいだろうか、今更ながらに気付いたその事実に妙な戸惑いを覚えずにはいられない蒼一だった。

やがて日も暮れ、帰宅した佳澄と共に夕飯を済ませた蒼一はリビングでくつろいでいた。
そこへ食事の後片付けやらを終えた佳澄が声をかける。
「ねぇ蒼一、今日はどうだったの?」
「どうって、何が」
「もう、今日はバレンタインデーだったでしょ。チョコは貰えたのかなって聞いてるの」
興味津々といった様子で尋ねてくる姉の言葉に、半ば呆れ気味の口調で淡々と答える蒼一。
「手当たり次第に配ってたのを1つ貰っただけだよ。まぁ義理とすら言えるのかも怪しいけど」
「まったく。そういう関心の薄いところは相変わらずなんだから」
そう言いながらも、何やらポケットから取り出した小さな包みを弟へと差し出す佳澄。
「そんな寂しい弟君に、はいこれ」
言われるがままに受け取った蒼一が何かと包みを開いてみると、それは一口で食べきれるかどうかのちょっと大きめなチョコレートだった。
「まぁ仕事先で配ってたやつの余りなんだけどね。美味しそうだったから蒼一にもあげる」
「……あ、ありがと」
姉から貰うチョコレート。
例えどんな物でも本来ならば嬉しいはずなのに、何故か気持ちがスッキリしない蒼一。
そんな彼の様子を見て、佳澄はクスッと笑う。
「なんて冗談よ。そんなしょぼくれた顔しないの」
「な、別にそんな顔……」
からかってみた弟の反応を一頻り楽しんだところで、佳澄は後ろに隠していたそれを改めて彼の前へと差し出した。
「日頃の感謝も込めて、私から蒼一へのチョコレート。受け取ってくれる?」
佳澄が差し出したもの。
それはまさに蒼一が昨夜目にしたあの箱だった。
てっきり他の誰かにあげたものだとばかり思っていた彼は、思わず驚きの声が漏れそうになるのを堪える。
「うん、もちろん。ありがとう、姉さん」
今度はしっかりと大事に渡されたものを受け取り、次第に驚きよりも嬉しさが勝り始める中、続いて「開けてみて」と促す姉の声。
早速ラッピングを解き箱の蓋を開けてみると、中に収められていたのは手の平ほどの大きさもあるハート型のチョコレート。
その表面には、ホワイトチョコで書いたものであろう白い文字が並んでいた。

  『これからもよろしくね
     いとしのソウイチへ』

「手作りなんて久し振りだったからちょっと形が歪だけど、大丈夫、味は保証するから」
妙に自信ありげに言い切る姉の様子に、蒼一は少し呆れながらも素直に喜びを噛み締めていた。
「でも姉さん、弟に“いとしの”はちょっと言い過ぎじゃない?」
「いいじゃない。本当の事だもの」
言いながら照れくさそうに笑う蒼一の表情に、佳澄は安堵していた。
今朝、目にした弟の様子が普段より落ち込んでいるように見えたのが、彼女もまたずっと気になっていたのだ。
その原因が何なのかまでは分からずとも、こうして今彼が笑ってくれている事で少なからず元気付けられたかもしれない事が、佳澄には何より嬉しかった。
そんなに自信があるのなら、と一口かじってみた蒼一が思わず呟く。
「あ、美味しい」
「でしょう? 蒼一が好きそうな味にするのに苦労したんだからっ」
そう言って、佳澄もまたより一層の笑みを浮かべるのだった。
 
 


この話自体は3年ほど?前に書いたものですが、更新出来るネタが無い&時期的にちょうどいいので上げておきます。
他の話で考えた姉弟設定を元にして書いた話なのですが、その小説(未完)をあげていないので登場人物が紛らわしいですね……
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Date:2013/02/12
Comment:2

Comment

* 蒼一くん、可愛いね♪。

バレンタインデーの短編というより、もっと長いお話の中のバレンタインエピソードだけ抜き出したような感じですね♪。
このお話だけだと微笑ましいけど、二人の今後、とくに蒼一くんがこのあと抱く悩みや苦しみを想像しちゃうと、いろいろ複雑な後味の小説でしたっ。
でも、本気で好きになれるような良い兄弟って、羨ましいなあ。
2013/02/14 【さらすばてぃ】 URL #z8Ev11P6 [編集]

* Re: 蒼一くん、可愛いね♪。

補足を微妙に足しましたが、元になる話から人物設定だけ利用して書いたものなので、それに近いかも知れませんねぇ。
この2人に関しては思い入れの強いキャラクターでもあるので、そのうちちゃんと書いてみたいところですねぇ。
(設定だけ考えて書いてない短編もいくつか・・・・・・)
2013/02/17 【カーレトン】 URL #-

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