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しんでもいいの、と君は言う


「ハァ、ハァ、ハァ……」
肩で息を切らし、額を流れ落ちる汗の量に比例するように一層の疲労感が全身を漂い始める。
だがまだその足を止める訳にはいかなかった。
残るは後1体。その最後のターゲットへと狙いを定めると、手にする愛刀を再び強く握り締め敵の死角へと走り込む。
その動きに合わせ、両腕を振るい迎え撃たんとする敵の攻撃をすり抜け、背後から気合一閃。振り下ろされた刃が確かな手応えと共に眼前の敵を両断させたのだった。

その様子を心底呆れた表情で見つめながら、彼女が俺の元へと追い着くなり言い放った。
「全く、何度人の忠告を無視して突っ込んで行けば気が済むのかしら?」
「この通り無事任務も済んだんだ、それでいいだろう」
「――無事、ねぇ」
確かに今の言葉通り、今回の任務でもある区画内の敵殲滅は先程自身の手によって成し遂げられている。
しかし、そんな俺の体もまた無傷ではない事は一目瞭然だった。
「さぁ、こんな所に何時までも長居は無用だ。そろそろ引き上げよう……」
依然肩で息を切らせながらも、強がる様に数歩踏み出した俺の足は不意に止まり、その場に膝を付く様に体勢を崩す。
足に受けた傷が痛み「くっ……」と傷口を押さえながら呻くその姿に、彼女は小さく溜息を漏らすと俺の隣へと同じく体勢を低くししゃがみ込んだ。
「ほら、治療するから傷を見せて」
「平気だ、この程度」もう何度吐いたか分からないお決まりのセリフを口にしてみる。
「膝を着いて、額に脂汗浮かべながら動けなくなっている人の、一体どこが平気なのかしらね」
彼女もまた分かりきった俺の反応など意にも介さず、既に取り出していた携帯用医療キットを用い手際良く傷の治療に取り掛かっていた。

「ねぇ、前からずっと聞きたかったのだけれど――どうしていつもこんな無茶ばかりするの?」
そう思われるのも当然な程、俺達は先程のようなやり取りを幾度となく繰り返して来た。
「……そういう性分なんだろうさ、きっと」
「性分ね……」
彼女は一通りの治療を終え、手の動きを止めると同時に目の前にいる相棒の顔をじっと見つめる。
「私には、何だか死に急いでいるようにしか見えないのだけれど」
しばらくの沈黙があった後、俺はわざとらしく逸らしていた目線を彼女へと向けた。
「だとしたら、どうする?」
彼女は小さく息を吐くと、ゆっくりと立ち上がりながら呟くように答えた。
「そうね。もしそれが本気なのだとしたら、あえて止めはしないわ」
少し遅れて立ち上がった俺を見ながら彼女は続ける。
「もし、貴方が戦いの中で死に場所を求めているのなら、私がその最後を見届けてあげる」
並んで立ち、ほとんど身長差の無い俺達の目線が同じ高さで交わる。
「ただし……」僅かに語気を強め一旦言葉を切った彼女の眼差しに一瞬鋭さが増すのを、俺は見逃さなかった。
「その代わりに貴方の葬儀では思い切り泣き喚いて、心の底から罵ってあげるわ。自分勝手に死んでいった貴方を絶対に許さない、ってね」
そう言い放った彼女の表情は真剣で、いつもの様な冗談めいた嫌味交じりの言葉とは質が違うものだと物語っている。
「無茶苦茶だな。何だか言ってる事が矛盾してないか?」
俺が死ぬのを止めない代わり、それを許さないのだという彼女の言葉は相反している。
行動を許容するのならその結末も受け入れて然るべきだろうに。
「そう? 願望叶って逝けるのだから、そのぐらいの負い目は覚悟して貰わないとね」
俺の疑問に“負い目”と彼女は返した。
つまり、俺は戦いの中で身勝手に死ねばその死後、相棒の心に深い傷を残し悲しみの底に落とした酷い男として晴れて名を残す可能性がある訳だ。
「フッ、手厳しいな」
その様を思い浮かべている自分に気が付き思わず苦笑する。
勇敢と無謀は違う。それぐらいは理解している。
では、俺が今までして来た事は? 全身に傷を負い、痛みと疲労で動けなくなる様な戦い方の結果、こうして生き長らえている俺の行動は……?
戦いに身を置く事でしか己を認識出来ない不器用な人種、そういう類の人間なのだという自覚はある。
その果てに死が待つのなら、俺はきっと受け入れてしまうのだろう。
だからこその性分。
彼女はそれを受け止め、同時に許さないと言った。なら彼女は俺の何を許すのだろう。
「それが嫌なら、生きていなさい。生きて私の前に居る事ね」
先程まで強張っていた表情がいつの間にか柔らかさを取り戻し俺を見ている。
「一体どっちなんだか……」彼女の言葉に触発され、考え込んでいた俺はその変化に気づくのが数秒遅れた。
「時折疑いたくなる。君が本当にキャストなのかどうか」
キャスト。ヒトと同等の知性や感情を持ち機械の体をその身とする人造種。
「あら心外ね。貴方達ヒトがそれぞれ千差万別なのと同じように、キャストだって色々な個性を持ち合わせているものよ。ただ、それを表に出す割合がヒト程には多くないだけでね」
感情を表に出さない、その事がキャストを人間味の薄い存在だと誤解させているのだと彼女は言う。
常に感情豊かに振る舞うキャストの彼女と、戦いで得られる高揚感だけが全ての俺という存在。果たしてどちらが人間と呼べるものなのだろうか。
仮に内包する心と言うべきものに差がないとしても、ヒトとキャストの間に存在する絶対的な差こそが生命体としての肉体の寿命だ。
ヒトの生が精々100年足らずな事に比べ、キャストの生はその数倍にも匹敵する。
一人の優れたキャストの教練を親子何世代にも渡り享受するという話もザラにある程だ。
「君はキャストだろう。必然的に考えてヒューマンである俺の方が先に寿命が尽きるが、その場合はどうなる?」
「そうね……」
彼女はそっと目を閉じ数秒思いに耽っていたかと思うと、愛おしげな口調でゆっくりと話し出した。
「もし貴方が精一杯生きて、その人生を、寿命を全うしてこの世を去っていくのなら、その時は静かに見送ってあげるわ。貴方とこうして過ごした時間、その想い出を深く強く胸の奥に刻み込みながらね」
胸の奥、そう口にした彼女の言葉は実に人間的で、彼女の体の各所に据え付けられた機械のパーツが酷く不釣り合いに見えるほどだった。
「本当に、君は俺以上に余程人間らしいよ」思わず洩れた呟きを褒め言葉とでも受け取ったのか、彼女はにこやかに微笑む。
「さて、話も済んだしこんな所に長居は無用。早く帰って今日の報酬貰いに行きましょ」
言うが早いか、彼女は俺に栄養補給剤、通称メイトを投げて渡すと来た方向へと踵を返した。
話をしている間に体力もある程度は戻っているが、疲労が消え去った訳でも無い。
俺はメイトの中身を粗方飲み干しながら、同意とばかりに先を歩き出した彼女の後を追うのだった。
先程とは違い、彼女が口にした光景が今の俺には想像が付かない。きっとそれは今まで考えた事もない光景だからだ。
でも、そんな終わりも悪くないのかもしれないなどと、柄にもない事を思う程度には俺の心というものを揺さぶられたのかも知れない。

死んでもいいと君は言う。
その言葉に思いに、俺はどちらの道を選ぶのだろうか……
 
 


話を思いついたのがPSU当時だった為、一部設定がそれに沿っていますが要素は薄いです。
書き上げてから、このお題は捉えようによって見方の変わる言葉だと再認識。
まぁこれも1つの在り様という事で。

お題元
http://akome07.jakou.com/old.html

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Date:2015/06/10
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