駄文置場

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


* 「スポンサー広告」目次へ戻る
*    *    *

Information

□ PSU小説 『噂のラッピー』 □

  『噂のラッピー』 後編

 
 それからどれ程経っただろうか。
シェフお手製のお菓子は売れ行きも好調で、気付けば売り切れも間近になっていた。
「ありがとうございました~」
やがて最後の1つまで無事完売し、買って行ったお客を見送るシェフも満足している様子だった。
「お疲れ様。いやぁ助かったよ、カスミン」
「どういたしまして。さてと、それじゃ私もコレを脱いでこようかな」
そう言って、着た時と同じく路地からは目立ちにくい物陰へ向おうと後ろを振り向きかけた時だった。
「キャっ」という小さな悲鳴が聞こえ、私は再び人で賑わう路地へと目を向けた。
すると、丁度正面辺りの路中で膝を突いて倒れる女性と、その隣で申し訳なさ気に立っている男性の姿があった。
何やら謝っている男性の様子からすると、不注意か何かで女性とぶつかり彼女を転ばせてしまったのだろう。
「大丈夫ですか?」
気が付くと、何時の間に駆け寄っていたのかシェフが女性を起そうと手を差し伸べている。
だが、彼女は「平気ですから」と言いながら彼の手はとらずに自力で起き上がった。
「まったく、何してるんだか」
あっさりスルーされたシェフは放っておき、どうやら女性の方は大した事は無さそうだと横に目を逸らすと、先程まで隣に居た筈の男の姿が見当たらない。
「……あ、あれ? な、無い!?」
続いて上がったのは、今度は慌てふためいた様子の女性の声。
「無いって、何が?」
「お金が、ポケットに入れて置いた筈のメセタカードが無いんですっ」
「ぶつかった拍子に落としたんじゃ」と問いかけるシェフに、「もし落としていたら転んだ時に気付きます」と返す女性。
2人のやりとりを聞きながら、在り来たりではあるが今一番可能性が高いと思われる考えに至った私は思わずそれを声に出していた。
「もしかして、さっきの男に掏られたんじゃ」
その私の一言に、全員が男の去ったと思われる方向へと目を向ける。
すると、やや先の方で人込みに紛れては居たが、一瞬こちらを振り返り、あからさまにそうと分かる怪しい反応を示した男の姿があった。
騒ぐ女性の声で気付かれたと悟ったのだろう。逃げる速度を速め、そそくさとその場を去ろうとしている男の後姿。
「あの野郎、俺等の前で堂々とスリを働くなんざいい度胸だ。追うぞ、カスミン!」
「え、あ、ちょっと待ってっ」
言うが早いか、自分の露店の後片付けもそのままにスリの犯人を追い駆け出していくシェフ。
一方、私はと言うと、とある問題から彼に続けず出遅れていた。
「私も行かないと。あ、でもこの格好のままじゃ……かといって着替えてる時間も無さそうだし……えぇい、もうこの際仕方ないっ!」
悩んだ末、覚悟を決めた私は結局着ぐるみ姿のまま路地へと戻ると、スリ犯とそれを追うシェフの後を更に追い走り出したのだった。

時間的にピークは過ぎたとはいえ、未だ人で溢れかえるフリーマーケット会場。
その中を人にぶつからぬ様気を付けて走る私達を他所に、スリ犯の男は余程必死なのか他人にぶつかろうがお構い無しだ。
そのせいか、彼を追っていると気付いた私達2人にも周りの目は向けられていた。
中でも、ラッピーの着ぐるみを来て全力疾走している私の姿は嫌がおうにも目立っているらしく、先程から周囲の視線が痛いほど注がれているのがよく分かる……
ただ不幸中の幸いとでもいえるのか、着ぐるみのデザイン上、身に着けている者の顔は口ばしの影に隠れて遠目にはほぼ見えないという点だけが救いだった。
「くそ、何処行った?」
思いのほか逃げ足の速いスリ犯に苦戦する内、男の姿を見失ったのかシェフが一旦立ち止まり辺りを見回している。
そんな彼が映る視界の隅で、不審に動く人影がもう1つ。
人込みから抜け出し、ビルとビルの合間に出来た狭い抜け道へと逃げ込もうとする男の姿を私は見逃さなかった。
すぐさまその後を追い、間一髪男に追い付いた私は捕まえんと手を伸ばした。
だがそれは男の背中を軽くぽふ、と叩いただけに終わり、まんまと逃げられてしまう。
そう、着ぐるみを着ていたせいで服の端すら全く掴む事が出来なかったのだ。
不意に今日シェフが言ったある一言が脳裏を過ぎる。
『いやぁ、それだと手の自由が利き辛くてさ』
まさかこんな場面であの言葉を実感する事になろうとは……
「もう、こんなの着てなければ捕まえられてたのに」
つい愚痴が口をついて出るが、今はそんな事を嘆いている場合では無い。
しかし犯人を追って抜け道へ入ろうにも、そこはかなり幅が狭くやはり着ぐるみが邪魔になって通れそうも無い。
そうこうしている間に、男はしめたものだとばかりに「じゃあな!」と捨て台詞を吐きながら、ソロソロと抜け道を進んで行く。
「確かこの先はリニアトレインホームに続く道があったはず……よしっ」
スリ犯の逃走経路に目星が着いた私は踵を返すと、すぐさま先回りすべく別の道へと駆け出した。

「どうやら、あのちょん髷男も着ぐるみネーチャンも上手く巻けたようだな」
パルム西地区、リニアトレインホームをもうすぐ目の前に控え、男は警戒を解いた様子で呑気に歩いている。
「その着ぐるみネーチャンというのは、ひょっとして私の事かしら?」
辺りに姿は無いにも関わらず聞こえて来たその声に男はしばし動揺したようだったが、すぐに声の主の居場所を突き止め頭上を見上げた。
ホーム入り口の手前、男がいる路面からは約5メートル程上にあたるすぐ隣の通路に私は居た。
「チッ、しつこい奴だな。だがそんな高さからどうする気だ? アンタがここへ降りて来る頃には、俺はとっくに列車でおさらばさ! ま、そっから飛び降りるってんなら話は別だろうがな」
「まったく、よく口の回る男ね」
男の言う通り、ここから少し進めば現在男が立っている下の通路へ降りる為の下り坂があるのだが、どうにもそちらへ周っている暇は無さそうだ。
私はもう一度改めて下の通路との高低差を確認する。
確かにこの高さから飛び降りるともなれば、かなり危険な行為には違いない。
それこそ着地にでも失敗すれば大怪我する可能性も高いだろう、普通ならば。
「こっちはねぇ……」
落下防止の為に設けられた柵壁へと両手をかけると、僅かに体を退き身構える。
「伊達に厳しい訓練、積んで来た訳じゃ無いのよっ!」
別に確実に飛び降りられる高さだという自信があった訳では無かったものの、再び追い詰めておきながらみすみす逃げられてしまう事に焦りもあったのかも知れない。
気合の声と共に思い切り地面を蹴った私は一気に柵壁を飛び越え、その無謀とも言えるジャンプを実行した。
一瞬宙を舞った私の体はそのまま真っ直ぐ落ち、狙い通り男の手前約1メートル程の所に勢い良く飛び降りていった。
「――ったぁ」
ドスン、という音と共に無事着地は成功したものの、案の定その際の衝撃で両足が痺れ体も固まってしまう。
だが男もまた私のとった行動に驚き、怯んでいる今がチャンスだった。
「この!」
私は未だ痺れで動きの鈍い足を片方無理やり引きずる様にして繰り出し、足払いを放つ。
「うぉっ!?」
すっかり呆気に取られていた男はこれを避けようともせず、容易く体勢を崩すと地面に倒れ込んだ。
しかし転んだ痛みで我に返ったのか、男はすぐさま立ち上がろうと体を起すが、それよりも早く体ごと圧し掛かった私によって再び地面へと突っ伏す羽目になっていた。
動きも封じられ、流石に観念したのか男は抵抗を止め小さく「参った」と呟いた。
「ふぅ……」
ようやくの事でスリ犯の男を捕まえるのに成功した私は思わず溜息を漏らしながらも、身に着けているラッピー着ぐるみに対し、少し感心していた。
コレのせいで1度は取り逃がしたものの、反面コレを着ていたお陰で飛び降りた際の衝撃が多少なりとも和らいだらしい。
流石、見た目にも分かるモフモフ感は伊達ではなかった様だ。
「お、いたいたって、何だ終わっちまったのか」
不意に頭上から聞こえて来た聞き覚えのある声に上を見上げると、そこには同じように下を見下ろしているシェフの姿。
「ちょっと遅かったわね、シェフ」
彼がこちらへとやって来るのを待つ間、再び私と男だけになったところで、スリ犯の男は顔だけをこちらに向け不思議そうに尋ねてくる。
「ア、アンタ一体何者だよ……」
この一言が切欠で、高揚し気味だった私の頭は冷静さを取り戻す。
「私は、その……」
今更ながら着ぐるみ姿でこんな事をしている自分に疑問と恥ずかしさを覚えたのか、口篭った挙句、何となく素直にガーディアンズと名乗る事に抵抗を感じた私の口が発したのは、こんな言葉だった。
「そう。ただの、通りすがりのラッピーよ……」
シェフとの合流を果たしてから数分後、誰かが通報していたのかどうやら現地勤務らしいガーディアンズ数名が男を取り押さえていた現場へと到着。
中には少なからず見知った顔も見て取れる。
「じゃあシェフ、後はお願いね!」
「あ、おい、カスミン!?」
私はスリ犯の男をシェフに任せると、彼らに正体がバレるまいと足早にその場を後にしたのだった。

それから数日後、パルムでのちょっとした任務を終えた私は、西地区にあるオープンカフェで寛いでいた。
そんな時、ふと近くに座っていた別の客達の会話が聞こえてきた。
「そういえば知ってるか? この間近くであったって言う騒動」
「あぁ、あの正義のラッピーの一件だろ。何でも女の金を盗んだスリを追っかけ回して捕まえたっていう」
何とも身に覚えのある会話に、私は何時の間にか聞き耳を立てていた。
それにしても、正義のラッピー……?
「そう、それ。聞いた話だとそのラッピー着てたのって、女だったらしいぜ」
「本当かよ?」
「しかも、リニアホームに逃げ込もうとした犯人を5メートル上から飛び降りて追い詰めた末、容赦なく正義の鉄槌を見舞ったとか何とか」
一体誰が言い出したのか。
あの日の私の活躍(?)はどうやら『正義のラッピー』と称され、噂話として囁かれているらしい。
それにしたって、正義の鉄槌はちょっと言い過ぎよね……
よく噂話には尾ひれが付き、ある事無い事まで言い伝わっていくのは私もよく知っている。
しかしながら、その話の当事者になるというのは何とも複雑な心境だった。
「そんな芸当が出来るのは、身体が頑丈なビーストかキャストぐらいだろうぜ」
「……ヒューマンで悪かったわね……」
周囲には聞こえていないだろう小声で呟きながら、私は残り僅かになっていた手元のドリンクを飲み干した。
やがて彼らの会話が別の話題に移ったところで私は席を立つと、勘定を済ませカフェを後にした。
あの様子だと、しばらくは正義のラッピーの噂は静まりそうも無いかも知れない。
自室へと向う帰りの道中、私は今後当分の間はラッピー着ぐるみは頼まれても絶対に着まい、とそう心に決めるのだった……
 
 
  <前編へ
 
スポンサーサイト


* 「PSU小説 『噂のラッピー』」目次へ戻る
*    *    *

Information

Date:2009/02/04
Comment:2

Comment

*

「それで、その正義のラッピーなんだけど、スリを捕まえた後、空を飛んでどこかへ行ってしまったそうよ?」
「その正義のラッピーをフォランの滝で見たって噂があるんですって!」な~んて、噂にどんどん尾鰭がついてしまったりしてね^^

楽しく拝読させていただきました♪
シェフさんの作った、お菓子が食べてみたいなと思ったのは内緒なんです(>_<)
2009/02/04 【ハルル】 URL #90LdKUd6 [編集]

*

書き終わってみれば結局ドタバタ劇になってしまった気もしますが、果たしてお題は達成出来たのでしょうかね^^;
そして何やら早速目撃談が(!?

前編のお菓子のくだりで、そう思って貰えたのなら狙い通りです(笑
この話の中で特に表現に苦労した部分でもありますから。
2009/02/05 【カーレトン】 URL #-

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

+
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。