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□ 短編小説 □

 『手紙』



君と会えなくなってから、一体どれ程の時が過ぎただろう。
今ではもう君の居ない生活にもすっかり慣れてしまったけれど、それでも時折、昔を思い出す度にふとした寂しさに駆られる事もあったり。

君とはよく色んな話をしたり、何かと相談に乗ってもらった事もあったよね。
あまり人と話すのが得意ではない僕だったけれど、何故か君とは素直に話が出来たんだ。
きっと、それだけ僕は君に対して心を許していたし、いつの間にか頼りにもしていたんだと思う。
その事を、こうして離れてみて嫌というほど思い知らされているのだから……

あれから数年。
君が今どうしているのか、それを知りえる術は無いけれど、ただ願うのは、せめてどこかで元気に過ごしてくれている事、それだけだ。
とはいえ、叶うのならばもう1度だけでも会いたいという気持ちは、やっぱり捨て切れないでいる。
もし、街のどこかで偶然君と擦れ違う事があったとしたら、その時はお互いに気付く事が出来るんだろうか……

今更、自分のこんな気持ちに気が付いても遅いし、もうどうする事も出来ないかもしれないけれど、
僕はずっと君の事が好きでした






部屋の片付けの最中、机の引き出しの奥から出てきた1枚の便箋を彼女がいつの間にか読んでいたと気付いたのは、もはや最後の1文に目を通し終えた後の事だった。
「それで、この続きはなんて書こうとしていたの?」
興味津々、いや、半ば面白半分といった顔付きで、彼女は隣に立ち尽くす僕に尋ねてくる。
何年も仕舞い込まれたまま、結局渡される事のなかった1通の“未完の手紙”。
宛先も名も書かれず、出す当てすらないのに処分出来なかったのは、それこそ未練の現れなのだろう。
「さぁね、もう忘れちゃったよ」
一応白を切って誤魔化そうとしてみるも、それが通じる相手ではないのは承知の上だ。
「あら、だって“ラブレター”にしては、肝心の言葉が載っていないんだもの」
案の定、無駄な抵抗に終わった僕の反応を見ながら楽しむ彼女の横顔が、いつになく意地悪くすら見えてくる。
「もういいだろ?……それに、ほら、君にはちゃんとこうして想いを伝えられたんだし……」
気恥ずかしさと動揺で、しどろもどろになっている僕を見て、彼女はクスッと笑いながらこう言った。
「何度だって聞きたいものでしょ? 恋する相手が言ってくれる、好きって言葉は特別だもの」
僕が散々言いよどんだ一言をあっさりと言ってのけた彼女の目は、いつも通りまっすぐ僕を見つめてくる。
その眼差しに僕が言い返せなくなる事を、彼女は知っているのだ。
すっかり弱みを握られた気分の僕は、照れ隠しとばかりに中断していた片づけ作業を再開し始めた。

そうして机に背を向けた僕は、この時気付いていなかった。
机に置かれたままのペン立てから鉛筆を1本取り出した彼女が、手紙の最後にちょっとした細工をし始めた事に。
やがて軽く塗りつぶされた灰色の中に薄らと浮かび上がる、かつての僕が残した躊躇いの痕跡を、彼女が見つけ出していた事に。
それを指でなぞりながら、照れくさそうに微笑む彼女がそこにいた事を。
 
 
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Date:2009/06/01
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