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□ PSU小説 『黒と白』 □

 黒と白 2

 
廊下での一件以来、幾度と無く任務で一緒になる事も多かった2人は、自然と話す機会も増えるに連れ次第に打ち解けていった。
歳も近く同じビースト同士、また共に新米ガーディアンズという境遇も大きかったのだろう。
気が付けば、お互いにとってそれぞれの存在が良き友と思えるまでに親しい仲へと変わっていくのに、そう時間は掛からなかった。

そんな2人が、環境保全の為の調査任務でミズラキ保護区を訪れていた時の事。
出発早々、意気揚々と先頭を進む雪の姿に始めこそ頼もしさを感じていた琴魅だったのだが、雲行きが怪しくなり始めたのは、もう日暮れも間近に迫る帰り道での事だった。
「……あれぇ、おかしいなぁ」
キョロキョロと辺りを見渡しながら首を傾げる雪。
その隣で、端末の簡易マップデータを参照しながら現在地を調べる琴魅。
「えと、今ここだからこの先は……」
似たような景色が続き、尚且つ道が複雑に曲がりくねったミズラキ保護区では確かに道に迷い易く、奥へと進むともなればより一層気を付ける必要性が出てくる。
だが、今2人が陥っている状況の原因は他にあった。
「う~ん、こっちかな」
何とか道を調べようと努める琴魅を他所に、雪はマップの確認もそこそこに再び勘を頼りに進み始めてしまう。
「あ、ちょっと雪さん、待って下さい~」
こんなやり取りを続ける内に、すっかり迷子になってしまった2人は、肝心の調査は終えたにもかかわらず支部へと帰り着けずにいたのだった。
あちこちと彷徨った挙句、何やら視界の開けた場所へと辿り着いた所で、2人は散々歩き回って疲れも溜まった足を休めるべく、一旦休憩を取る事に決めた。
互いに同じ木の下で隣り合わせに座りながら、琴魅はもはや疑いようの無い事実を恐る恐る口にしてみる。
「もしかして、雪さんって方向音――」
「待って、そんなハッキリ言わないで。悲しくなるから……」
自分が言い終わるよりも早く、言葉を遮った雪の何とも切ない表情を見て取った琴魅は、これ以上は聞くまいと、改めて自分の作業へと戻る。
しばらくして、まずは現在地の特定と大まかな帰路の把握を済ませた琴魅は、一息付く様に携帯用端末から顔を上げた。
「これで何とか帰れそう」
そこでふと隣に雪が居ない事に気付き辺りを見渡してみると、いつの間にか少し離れた別の木の下に立ち、枝へと手を伸ばしてる雪の姿があった。
何をしているのかと近づく琴魅に、雪は手にした果実を1つ差し出しながら声をかける。
「丁度持って行こうとしてた所なんだけど、はい、これ」
そうして手渡されたのは、見覚えのあるオレンジ色の皮に包まれた果物、ミ・カンだった。
「こんな場所に生ってるのも珍しいよね。しかも色といい大きさといい、正に食べ頃って感じ」
「全然気が付かなかった。よく見付けましたね」
素直に感心する琴魅の言葉に、少し照れた様子で答える雪。
「私より、琴魅の方が端末の扱いは得意でしょ? だから、そっちは任せて周りを調べてたら偶然ね」
早速皮を剥き、一房口に含んでみると、瑞々しい果肉の甘酸っぱい味と香りが口いっぱいに広がり、雪は自分の見立てが間違っていなかったと安堵する。
「私達、予備の食料なんて持って来てないでしょ? だから何か現地調達出来そうな物は無いかなって思って。まぁこれぐらいしか見付からなかったけど、少しはお腹の足しになるから」
「ありがとう、頂きます」
琴魅もまた一口頬張り、思わず美味しいと洩らす彼女を満足気に見ながら、続いて雪は空を指差した。
「それとほら、見て琴魅」
名を呼ばれ、釣られる様に雪が示す方向へと目を向けた琴魅の動きが一瞬止まる。
「わぁ、綺麗な月」
もう陽もほとんど落ち、夕闇が迫る空にぽっかりと浮かんだ青白い月。
満月までには至らないものの、その輝きは見る者の目を惹き付けるのに十分な魅力があると感じられた。
視界を遮るものがほとんど無いにも関わらず琴魅がそれに気付けなかったのは、先程まで座っていた木の根元からでは丁度月の位置が背になってしまい、見え辛かったせいもあるのだろう。
しかし、目の前の事に集中する余り周囲に対する認識が疎かになっていた、とも言えるのではないか。
感嘆の声を上げながら、琴魅は雪の視野の広さに感心しながらも、その割には方向音痴という彼女の矛盾にも似た欠点が不思議で堪らない気分だった。
「どう、たまにはこうして寄り道してみるのも悪くないでしょ?」
果たしてこれが“寄り道”と呼べる程度で済むものなのかどうかはともかく、雪のお陰で過ごせた思わぬひと時に、琴魅はどこか懐かしいものを感じていた。
それは彼女にとって久しく忘れていた、心許せる誰かと共に過ごす安らぎにも似た時間、だったのかも知れない。
「たまになら、ですけどね」
普段、任務中にこんなのんびりとした時を過ごす事など考えもしなかった琴魅。
だが、今はそれも悪くは無いと思っている自分が妙に可笑しく、思わずクスッと笑った彼女の表情はいつに無く柔らかなものだった。
「さて、そろそろ出発しよっか。流石に野宿までしたくないしね……」
恐らくは本音なのだろう。まじまじと呟く雪に、琴魅もまた同じ気持ちだと頷く。
「今度は私が前を歩きますから、はぐれない様にちゃんと付いて来て下さいね」
「後半がちょっと気になるけど、頼りにしてます、琴魅様っ」
やがて2人が無事支部へと帰り着いたのは、それから更に1時間以上が経過しての事だった。
余りの遅さに心配していたオウトク支部の受付嬢、レイナは労いと安堵の言葉と共に2人を出迎えてはくれたものの、その帰りを待ちわびていたもう一人の人物、彼女達の上司からは呆れた顔と小言のお説教が待っていたのは言うまでも無い。

「琴魅様にも、そんな時期がおありだったのですね」
「その後も、違う場所に行く度に同じような事を繰り返していたものだから、気が付いて見ればすっかりニューデイズの地形には詳しくなっていたものよ」
「なるほど。経験がしっかり知識として身に付いた、という事でしょうか」
「ふふ、そういう事になるのかしら」
懐かしげに語りながら、自然と笑みが零れる琴魅。
それを見詰める汐音の表情からは既に不安げな眼差しは消え、今は嬉しそうに彼女の話を聞いている。
「雪には本当に感謝しているの。一緒に過ごした楽しい日々の事はもちろん――私にとって何より大きかった壁を乗り越える切欠を与えてくれたから……」
そう呟きながら、琴魅は自身を抱く様にそっと左手を右腕へと宛がった。
そこに印された独特な模様を撫でる様に触れながら、彼女は雪との思い出の中で、最も忘れ難く大事なものとなった、ある出来事を思い起こしていた。 
 
 
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Date:2009/08/02
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