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□ PSU小説 『黒と白』 □

 黒と白 3

 
「そういえば、琴魅がナノブラストしたところって見た事無い気がする」
ある日の任務終わり、支部へと戻るGフライヤーの中で、雪は疲れた体を深々とシートに沈ませながらふと思い立ったように声を上げた。
ビーストならば誰しもが潜在的に内包している特殊な能力、ナノブラスト。
獣人化という激しい外見の変化と共に、著しい身体能力の向上をもたらすビースト固有の力の名称であり、その強力さ故に発動中の姿こそがビースト本来の姿とさえ言われるほどである。
また発現する力には幾つかの傾向があり、それぞれ使用者の性格や内に秘める潜在意識が反映される事で性質が決まるとされていた。
その特性をより安定化させ高い能力を引き出す為の処置として使用者の腕に描かれる幾何学模様、通称ナノブラストバッチは所謂制御式としての役割を果たしている。
話題を振った当の本人、雪の右腕にももちろんそれは刻まれていた。
だが、琴魅の右腕は服の袖に覆われ、それを見て取る事は出来ない。
「え? あぁ、うん……私、使えないから……」
己の腕へと注がれる雪の視線に気付いたのか、俯いたまま小さく答える琴魅の表情は浮かなく、いつにも増して陰っていた。
そんな彼女の様子の変化に、雪はそれ以上聞こうとはせず暫しの間を置き再び口を開いた。
「……そっか。まぁ、人それぞれ色々あるしね」
嫌な事を聞いたかと詫びる雪に対し、そっと首を横に振る琴魅。
「でもさ、変身出来ないからって困るものでも無いし、それにあれ使った後は凄く疲れるんだよねぇ。おまけに何と言っても顔付きまで獣になっちゃうしね、思わずニャ~って言いたくなるぐらい」
丁寧に手振りまで付けながらおどけてみせる雪の姿に、琴魅はようやく表情を崩しクスリと笑うのだった。

やがて、支部へと帰り着いた2人は任務成果の報告やその他の雑務を済ませると、それぞれ互いの部屋へと戻り休息を取っていた。
「はぁ……」
疲れた体をベッドに預け、仰向けに寝転ぶ琴魅の目はどこか虚ろ気で、じっと天井を仰ぎ見たまま動かない。
そんな彼女の頭の中では、先程雪と交わした会話が切欠となって引き出された、自分が過去に起こしてしまった忌まわしい出来事の記憶が意識の全てを支配していた。
それは、琴魅がまだ正式なガーディアンズライセンスを与えられる前、訓練校の生徒だった時代。
Gコロニーにおいて発生した、SEED襲来によるリニアライン崩落事故。
事故当時、偶然その現場近くに居合わせていた琴魅は、休暇を利用し彼女の下を訪れていた母親と共に市民の救助と避難を手伝っていた。
侵食と共に次々と出現するSEEDフォームに対し懸命に応戦する琴魅だったが、母を庇いつつの慣れない戦闘の前に次第に苦戦を強いられ、ついには退路を塞がれるように周囲を取り囲まれてしまう。
そんな窮地からせめて母だけでも逃がそうと、琴魅はある決断を下す。
だが、それが危険を伴うものだと判断した母の静止する声を振り切り、彼女は感情の赴くままにナノブラストを発動させたのだった。
獣人化した彼女の活躍により、数分と経たずして付近のSEEDフォームは一掃。
辛うじてその場を凌ぐ事には成功したものの、元より精神面で弱さのあった琴魅の心は、力の解放による闘争本能の増大に耐え切れず、半ば暴走状態へと陥ってしまう。
我を見失い辺り構わず暴れだす彼女は、それを止めようと必死に名を呼ぶ母親にすら襲い掛からんと腕を振り上げたその時だった。
素早く身を翻し、2人の間に割って入る1つの影。
突如として現れた男は琴魅の振り下ろした爪を受けながらも彼女に強烈な一撃を加え、その動きを止めた。
崩れるように床へと倒れ付した琴魅は気を失い、同時に能力の限界を向かえた事で再び少女の姿へと戻っていた。
琴魅の振るった爪から母親を庇い、身を挺して彼女の暴走を止めて見せたのは、逸早く現場に駆け付けて来たガーディアンズの一員であり、そして2人の最も身近な人物、琴魅の父親だった。
幸い、父の負った傷は致命傷に至るほどのものでは無かったが、それでも体に大きな傷跡を残す事となってしまう。
その後、事故現場での琴魅の活躍に加え両親の働きかけもあり、琴魅が力を暴走させた件については不問となった。
だが、それでも父に傷を負わせ、母をも危険な目に遭わせてしまったと言う事実は彼女の心に大きな影を落としていた。
それはやがて深い自責の念と共に心の奥底に刻み込まれ、そんな事態を招く原因ともなってしまった自らの力を恐れる余り、琴魅はいつしかナノブラストの能力を発揮出来なくなってしまっていたのだった。

ナノブラストは強力な力であるが故に、それを制御し、用いる側にもそれ相応の強い精神力が求められる。
しかし、ビーストの全てがこれを備えている訳では無く、かつての琴魅のように力に飲まれ、暴走を引き起こしてしまう者も少なからず存在していた。

思い出す度に浅はかだった己を悔やみ、後悔の念が胸を締め付ける。
「誰かを傷つけてしまうだけの力なんて……」
もう十分だと言わんばかりに上体を起こし、琴魅は頭を切り替えようと軽く首を左右に振る。
と、その時、不意に誰かが部屋のドアをノックする音が鳴り、続いてよく聞きなれた声がドア越しに響く。
「琴魅、居る?」
「……雪さん?」
ベッドから立ち上がり、部屋のドアを開いた先に立っていたのは、やはり雪だった。
見ると、その手には何やら取っ手の付いた小箱が握られ、仄かに甘い香りが立ち上っている。
「何だか、さっきの琴魅の様子が気になっちゃって。良かったら少し話さない?」
立ち話も何だからと、彼女を部屋へと招き入れた琴魅が2人分のお茶を淹れるのを待つ間、雪はその背中越しに声をかけた。
「やっぱり気にしてる? あの話」
「ううん、そんな事……ただ、少し感傷に浸っていただけだから」
湯気の立ち上る2つのカップをそれぞれの席の前に置きながら、伏し目がちに答える琴魅。
「もし、今、貴女が抱えている悩みが話してもいいと思える事だったら、私で良ければいつでも相談に乗るよ。まぁ大した事は出来ないかも知れないけどね」
「ありがとう。でも、今はまだ……」
「うん。だから本当に琴魅がいいって思えた時だけでも構わないからね。無理強いとかするのは私も嫌だから」
そう言って優しく微笑む雪の姿に、琴魅は幾分か気持ちが安らぐのを感じていた。
だが、こうした彼女の気遣いをありがたく思う一方で何も話す事の出来ずにいる自分に、雪に対して申し訳無く思う気持ちと、己の心の弱さに一層の不甲斐無さが募るのもまた同時に感じるのだった。

その後もしばらく雑談を交えつつ一緒の時間を過ごしていた2人は、夜も更け始めた頃合をみてその日はお開きとする事となった。
席を立った雪と共に彼女を廊下まで見送りに出た琴魅の表情はすっかり落ち着きを取り戻した様子で、雪は少し安堵する。
「雪さん?」
気が付くと、じっと自分の顔を見詰めている雪の視線に、琴魅は思わずその名を呼んだ。
「私、琴魅の笑った顔、好きだよ」
「えっ」
不意に告げられた予期せぬ雪の一言に動揺する琴魅を他所に、雪はなおも言葉を続ける。
「だから、もし私のする事で貴女が笑ってくれるのなら、私はどんな馬鹿だってやれそうな気がする。もちろんそれだけじゃなくって、もっと色んな表情見てみたいって思ってる。だって、何時も浮かない顔してるばかりが貴女じゃ無いでしょ」
「雪さん……」
自分で言いながら恥かしくなったのか、照れ臭そうに笑う雪の顔は、かつて出会った時のそれと何ら変わらず琴魅の目には眩しく映っていた。
「きっとこれからもこうしてお節介焼きに来るだろうけど、迷惑だったらちゃんと言ってね」
「そんな、全然――迷惑だなんて思っていませんよ」
だといいんだけど、などと言いながら、雪は改めて帰路へ付くべく1歩を踏み出した。
「何だか、それだけ言っておきたかったから。じゃ、また明日」
「はい、お休みなさい」
次第に遠ざかる彼女の背中が廊下の奥へと消えて行くのを見送りながら、琴魅は雪の言葉を噛み締めるように頭の中で繰り返す。
そしていつかそんな彼女の想いに応えられたらと、そう心の中で強く思い続けるのだった。
 
 
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Date:2009/08/23
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