駄文置場

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


* 「スポンサー広告」目次へ戻る
*    *    *

Information

□ PSU小説 『黒と白』 □

 黒と白 5

 
 シコン諸島での掃討任務から1週間、それまで急ピッチで進められていた浄化作業も功を奏し、今回の侵食騒動も漸くの落ち着きを見せ始めていた。
そんな頃、連日の忙しさも一段落し、久方振りの休暇が与えられた琴魅と雪は、これを満喫するべく街へと出掛けていた。
ショッピングに美味しい食事、ついでにデザートも楽しんだ所で、後はのんびり過ごすべく2人は支部にある雪の部屋と集まっていた。
お茶と買って来たオヤツをテーブルに並べ、話の弾む2人の会話は、いつしか先日の任務の話題へと移っていった。
「あの時は、流石にヤバかったなぁ」
「でも、2人共こうして無事で何よりでしたよ」
「それに関しては、本当、琴魅に感謝しないとね」
命の恩人だとばかりに大袈裟にありがたがって見せる雪の仕草に、琴魅は照れる様に顔を綻ばせる。
だがその心の内では、あの日感じた戸惑いが未だに解けず残っていた。
「以前、私がナノブラストが使えないって話した事があるの、覚えてますか?」
「うん。だから、あの時は余計に驚いたもの」
琴魅は気を落ち着かせるようにお茶を一口だけ飲むと、そっと呼吸を整える。
「使えなくなったのには、今から数年前、私が――私の未熟さが招いてしまったある出来事が関係しているんです」
「出来事……? それって、やっぱり私と知り合う前の事だよね」
「はい。その一件以来、あの力を使う事が怖くなってしまって、いつの間にか……」
暫しの沈黙と共に俯き、手元のカップの中で揺れる自分の姿を見つめていた琴魅は、僅かに顔を上げると再び口を開いた。
そして彼女は、自身のトラウマを生む原因ともなった過去の記憶を、簡潔にだが雪に打ち明けたのだった。
「そっか、そんな辛い事があったんだね……」
神妙な面持ちで話す琴魅の様子に、雪もまた切なげな表情で彼女を見つめている。
「ごめんなさい、急にこんな詰まらない話してしまって」
「ううん、そんな事無いよ。むしろ、そんな大事な話をしてくれた事の方が嬉しいから」
話を聞き、雪はずっと気になっていた琴魅が時折見せる酷く沈んだ表情の訳が、多少なりとも理解出来た様な気がした。
だからこそ、彼女にとってはこうして琴魅が心の内を明かしてくれた事が、何より嬉しく感じられたのだった。
そして、琴魅もまた返って来た雪の穏やかな反応に、幾分か気持ちが救われる思いだった。
それは、他の誰でもない雪へ、自分の心の傷を打ち明ける事が出来た安堵感とも言えるものだったのかも知れない。
「やっぱり、今でもナノブラストするのが怖い?」
「怖くない、と言えば嘘になりますね、きっと。それこそ、あの時は無意識の内にでしたから、そんな事考えている余裕も無くって……」
あの一件以来、再びナノブラスト化を試みる機会こそ無かったものの、それでも以前に比べて力そのものへの恐れは幾分か和らいだような、そんな気がするのを琴魅は心のどこかで感じていた。
「それでも、前に比べれば少しは気が楽になったような、不思議とそんな気分なんです」
「……そうだね。今までずっと苦しんで来たものが、一度の切欠でそう簡単には変わらないかも知れない。だからきっと、今はそれで十分なんだと思う」
そこまで言うと、雪は喉を潤す為か一旦言葉を区切り、数回お茶を口に運ぶ。
そして、再度琴魅へと目を向けると、じっと見つめる様にこう告げた。
「だけどね、これだけはハッキリと言える。あの時、琴魅がどう感じていたにせよ、貴女のその力のお陰で私は命を救われた。それだけは確かだから」
「雪さん……」
そして雪が自分へと投げ掛ける優しげな眼差し。
琴魅は、それをどこか懐かしい気持ちで見つめていた。
それはかつて、自分が父を傷付けてしまったあの日、痛々しい姿を晒しながらも自分と母の身を案じ向けられていた父の眼差しに、どこか似ているとそう思えたから。

いつしか、琴魅の意識は再び過去の記憶へと遡っていた。
件の事故から数時間後、傷の手当てを受け、病室のベッドへと横たわる父の傍らで、酷く泣きじゃくりながらただうろたえる様に「ごめんなさい」と繰り返す事しか出来なかった琴魅に対し、父は「お前は母さんを守ろうとしてくれたんだろう?」と、「半人前のお前程度にやられる様じゃ、俺もまだまだ甘いな」と、まるで琴魅は悪くないのだと言い聞かせるように答えていた事が、不意に彼女の脳裏に甦る。
忘れていたと言うより、その事すらも、あれは自分が全て悪いのだと言う罪悪感によってかき消してしまっていたのかも知れない。
ふとそんな事に気が付き、彼女は胸の奥からこみ上げて来る何かを堪えるように、じっと俯いていた。
「琴魅?」
何やらすっかり黙り込んでしまっていた琴魅の様子を心配し、雪が覗き込むように声を掛ける。
「ぇ、あ、いえ。何でもありません」
顔を上げたその目に浮かぶ仄かに光るものにはあえて触れず、雪はそっと琴魅の頭を撫でると、「お茶、淹れなおして来るね」と2人分のカップを持ち、席を外して行ったのだった。

それからしばらく、2人の間に静かな時間が流れてからだった。
「そういえば、琴魅は自分の能力がどんなタイプなのか知ってる?」
はたと思い立った様に尋ねる雪の質問に、琴魅は飲み掛けていたカップをテーブルに置きながら答える。
「いえ、そこまで詳しくは」
ナノブラストに関して基本的な知識は身に着けてはいたものの、それを行使する事が出来なかった琴魅には、己の力の性質に関して知りようが無かったのだ。
それを聞き、雪は自分の見立てでは、と前置きをしてから話し始めた。
「私の赤いオーラは攻撃面に特化したパワータイプ。要は敵を倒す為の力ね。そして、琴魅のあの青いオーラは、恐らく防御面に秀でたディフェンスタイプ。言わば守りの力ってところかな」
「守りの力、ですか……」
繰り返すようにそう呟いてはみるものの、今一つ実感の持てない琴魅。
そんな琴魅の様子に、雪は付け加えて言う。
「思い返してみて。あの戦いの際、強化型カマトウズの突進を受けて吹き飛ばされても、それ程の酷いダメージは負わなかったでしょ?」
「言われて見れば、確かにそうですね」
「私だったら、幾ら万全の状態であの攻撃を受けたとしても、あの後すぐには反撃なんて出来なかったと思うもの」
琴魅自身、あの突進は流石に堪えるものではあったものの、それでも雪の言う通り、あれを受けてもなお、止めの一撃となった反撃を繰り出せるだけの余力が残っていたのもまた確かな事だった。
「……なるほど」
そんな事実もあり、雪は先程自分の見立てではと言ったものの、既に琴魅のナノブラストの性質が防御型だろうと、半ば確信にも近い認識を持っていた。
それが伝わったのか、琴魅自身もまたその事に納得している様子だった。
「ねぇ琴魅。私さ、こんな風にも思うんだ」
しばらくして、不意にそう切り出した雪へと琴魅は目を向けた。
「私達の仕事って、今はSEEDの浄化だとか暴れる原生生物の退治とか物騒な物が多いから、どうしても敵を倒す為の力に目が向きがちだけど、ガーディアンズって言葉の意味そのままだと守護者達って事でしょ。だから、そういう面では琴魅のその守る事に秀でた力は、正にピッタリなものだと思うけどな……なぁんて、言った割には上手くまとまってないかも知れないけどね」
アハハ、と照れた様に笑う親友を前に、琴魅は今しがた雪が口にした言葉の意味を噛み締めるように、頭の中で繰り返していた。
かつての自分は、母を守る事より目の前の敵を倒す事を優先し力を発現させた結果、暴走を引き起こしてしまった。
だが、今度は目の前で危機を迎えていた雪を、ただ純粋に助けたいという一心で力を用いた事が自身の能力の本質を引き出し、その想いが同時に強い意志となって力の暴走を食い止めるに足る精神力を生み出したのかも知れない。
あのカマトウズとの戦いの時、雪を守る事が出来たように、もし自分の忌み嫌って来た力で他の誰かを守る事が出来るのなら、それ程忌々しいものでは無いのだろうかとさえ思えてくる。
こんな風に考えれるようになったのも、きっと何より雪のお陰。
そう思うと、琴魅は自然とある言葉を口にしていた。
「ありがとう、雪」
「ん? 何か良く分からないけど、どういたしまして……って今、名前――」
「あ、ごめんなさい」
つい呼び捨てにしていた事にハッと気が付き、咄嗟に詫びる琴魅に、雪は大きく首を横に振る。
「ううん、怒るどころか逆に嬉しいよ。何だか今日は、嬉しい事尽くめだねっ」
今日何度目かの笑顔の中でも、特に屈託の無い笑顔を浮かべる雪に釣られるように、琴魅もまたクスッと明るい笑顔を零さずには居られない2人であった。


「琴魅様は、素敵なご友人をお持ちなのですね」
「フフ、ありがと」
すっかり雪との思い出話を語って聞かせていた琴魅の意識は、間を見計らっていたのであろう汐音の一言で、漸く現実へと引き戻されていた。
「その方は今もガーディアンズに?」
「いいえ、それから色々とあってね。彼女は今はもう引退して、パルムにある静かな街でのんびり暮らしているそうよ。確か、湖畔の綺麗な公園が近くにあるとか言っていたかしら」
何時だったか送られて来たメールの中に、風景写真が添付されていたのを思い出し、琴魅は端末を手早く操作するとその画像をディスプレイへと表示して見せた。
「今度、会いに行かれてみては如何です?」
「そうね、しばらく会っていないし、次の休暇にでも久し振りに遊びに行ってみようかしらね」
背景に見える美しい湖畔と共に写っている、以前より少し大人びた感じもする親友の姿を懐かしみながら、琴魅は次いで側に立つ汐音へと顔を向ける。
「そうだ、汐音。たまには貴女も一緒にどう?」
「え、私もですか? でも、私などが付いて行ってお邪魔にならないでしょうか」
「いつも部屋で留守番ばかりじゃつまらないでしょう? それに前に話した時、確か雪も貴女に会いたがっていた様だったし」
「そういう事でしたら、喜んでお供させて頂きます」
その答えに満足気に頷くと、琴魅は端末を閉じ再びベッドへと腰を下ろした。
「さぁ琴美様、せめて少しでもお休みになられないと、明日に差し支えます」
「えぇ、そうね。私もなんだか、今なら眠れそうな気がする」
去り際、もう一度琴魅の方を振り返り、丁寧にお辞儀しながら「おやすみなさいませ」とだけ告げると、汐音は寝室を後にしていった。

話し疲れたのか、それとも汐音と話した事で少しは気持ちが落ち着いたのか。
ベッドへと体を横たわらせ、やっとの事で重くなり始めた瞼を2度3度と瞬かせながら、琴魅はつい先程汐音と交わした約束の事を考えていた。
次の休みはいつ取れるだろうか。
それに行くならやはり事前に連絡しておかないと。
いや、あえて突然会いに行って、彼女を驚かせてみるのもまた楽しそうだ。
しばらくはそんな事をつらつらと考えていた琴魅だったが、やがてその意識は夢の中へと落ち、安らかな寝息を立てながら穏やかな眠りへと付いていったのだった。
 
 
――――完


  < 4へ
 
スポンサーサイト


* 「PSU小説 『黒と白』」目次へ戻る
*    *    *

Information

Date:2009/11/05
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

+
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。