駄文置場

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


* 「スポンサー広告」目次へ戻る
*    *    *

Information

□ 短編小説 □

 『小鳥に願いを』

 
 季節外れの雨が数日続き、ようやく晴れたその日の青空は、まさに雲1つ見当たらない晴天そのものだった。
そんなある日の事、彼が珍しく空が見たいと言うので、私は彼と共に病院の屋上へと向かった。
車椅子を押しながら廊下を進む途中、ふと手に何かが触れる。
目を落とした私の顔と、こちらを振り返り優しく微笑む彼の視線が重なる。
そっと触れられた彼の手は、ひょっとしたら女の私よりも肌が白く、元から太い方では無かったその指も、一層ほっそりとしてして見えた。
私もまた彼に微笑みかけると再び顔を上げ、目線を廊下の先へと戻した私の視界は、いつしか仄かに滲み始めていた。
やがて屋上へと到着した私達を、燦々と降り注ぐ痛いぐらいの眩しい陽光と、静かに吹き渡るそよ風が出迎える。
「今日は、久し振りに良い天気ね……」
そう呟く私に彼もまた頷く。
「そうだね、本当に良い天気だ……」
透き通るような青空とは、まさにこういう事を言うのだろう。
しかし、そんな美しい光景とは裏腹に、私の心は重く沈んでいた。
すぐ隣で、眩しそうに空を見上げている彼の視線の先で、何処からとも無く飛んで来た2羽の小鳥が仲良さそうに飛び回っている。
恐らくつがいなのだろう。着かず離れず、何とも絶妙な距離感で、グルグルと円を描くように寄り添って飛んでいる。
「ぁっ」
どれくらいそうしていたのか。
やがて再び何処かへと飛び去って行く鳥達の姿を見送りながら、私はそんな小鳥達がどこか羨ましいと感じていた。
きっとあの小鳥達は、この先もずっと寄り添って飛び続けるのだろう。
いや、それはもしかしたら、そうあって欲しいと想う私の願望なのかも知れない。
私達には、もうほんの僅かしか側に寄り添い合える時間が、残されていないから……

病室を出る少し前、彼が言った言葉。
「最後に空が見たい」
その一言に、私はただ黙って頷く事しか出来なかった。
もしそこで何か言葉を発したら、そのまま必死に堪えていた感情の全てが溢れ出てしまいそうだったから……
こうして隣に立っている今も、押さえ切れない涙が今にも零れそうになる。
察しの良い彼の事だ。そんな私に気が付いていない筈は無い。
でも、最後はせめて、彼が好きだと言ってくれた笑顔で側に居てあげたい。
それが例え、無駄な抵抗だとしても。
「――めん……」
「え?」
ぼそり、と隣で何か呟くのが聞こえ、私は彼へと振り向く。
その声はか細く聞き逃してしまいそうなほどに小さなものだったが、私には確かにそれが「ごめん」という一言だと分かった。
でも、それが一体何に対してなのか、それを知るのが怖くて私はよく聞こえなかった振りをした。
すると彼は、今度は顔をしっかりとこちらへと向け、こう告げた。
「ありがとう」
「……うん」
それが限界だった。
唇を噛み締め、遂に目から零れ落ちる涙が一筋、頬を伝う。
『泣かないで』
そっと私の頬へと手を伸ばし、弱々しく指先でそれを拭う彼の唇の動きが声にならない言葉を発する。
やがて、まるで穏やかな眠りにでも付くかの様にゆっくりと目を閉じ逝く彼の手を精一杯握り締めながら、私はもはや止めようも無い感情の波に押され、ただ静かに涙を流す事しか出来なかった……
 
 
-----------------------------------------------------------------------------

この短編小説は、以前書いた『死に逝く人に5のお題』の中の1つ、
『ああ 空が青い これまでも これからも ずっと変わらずに』を元に、登場人物の視点を変えて書いてみたものです。

(お題ネタに分類するか微妙なところなので、こちらに掲載しておきます)
スポンサーサイト


* 「短編小説」目次へ戻る
*    *    *

Information

Date:2009/11/28
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

+
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。