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□ 短編小説 お題ネタ □

  『つきつけられたのは優しい君の嘘と残酷な現実とそして』

 
「好きですっ!」
突然の告白で驚いたのか、彼女はきょとんとした顔で僕の方をじっと見詰めている。
その視線に居た堪れなくなり、何か言おうと口を開きかけた時だった。
「ごめんなさい……」
まるで呟くように一言そう発せられた言葉に、僕は再び彼女へと目を向けた。
「私ね、他に好きな人が……ううん、付き合ってる人がいるの」
帰ってきた言葉は、良くも悪くも僕の予想通りのものだった。
ただ一つだけ違ったのは、その前に一瞬だけ見せた、僅かに目を伏せ何かを考え込んでいるかのような彼女の複雑な表情。
それが気になり、僕はいつの間にか相手の顔をじっと見入るように見詰めていた。
「だから、ごめんね」
その直後、申し訳無さそうに告げる彼女と不意に目が合い、思わず動揺する。
「あっ、いえ……僕の方こそ急にこんな……」
本当に分かり易く動揺していたのか、それを見て彼女がくすっと笑う。
それで気が緩んだのだろうか。次いで僕の口をついて出たのは、不粋な質問だった。
「あの香澄さん。付き合ってる人ってやっぱり新藤先生、ですか?」
態々苦しむような事を聞かなければいいものを……頭の中でもう一人の自分が呟く。
「うん。聡一君、気付いてたんだ?」
「いつも二人が親しそうに話してたり、仲良さそうにしてるの見ていて、羨ましいなって……」
本当、何言ってるんだろうか、僕は……
「私の事、いつも見ててくれたんだね」
「それは、その……まぁ……」
正に図星で恥ずかしさの余り言葉に詰まってしまう。
そんな僕を他所に、香澄さんはベッド横の台の上に置かれた本へと手を伸ばし、そこから何やら抜き取った。
「そのお礼っていう訳じゃないけど、はい、これ」
そう言いながら彼女から差し出されたのは、一枚の栞だった。
長方形の台紙に一輪の青い花が押し花された、どうやら手作りの物らしい。
「良かったら、大事にしてね」
躊躇いつつも受け取った僕に笑顔でそう言う彼女を、僕は『ずるい』と思った……

見事に振られてからニ週間が過ぎようとしていた。
僕の骨折した左足も、もうじきギプスが取れるらしい。
かわりに出来た心の傷は、今だぽっかりと空いたままだったが。
「今日は風が強いな」
いつの間にか屋上に来ていた一人の医師が、そこにいた僕に声をかける。
「新藤先生……」
その医師の名は新藤政樹。確か香澄さんの担当医であり、そして……
彼は備え付けられたベンチに一席分空けて僕の横に腰を下ろすと、白衣の下に着たワイシャツの胸ポケットから煙草を取り出した。
「良いんですか? 煙草吸って」
「君が構わないなら問題無い」
そんな屁理屈めいた事を言いながら一本口に咥え火を付けた。吐き出された白い煙が、風に掻き消されてはまた現れる。
煙草を吸うその仕草が悔しいくらい様になっている横顔に、僕はそれ以上何も言えなくなる。
やがてそれも三分の一程が燃え尽き灰になった頃だろうか。
大きく息を吐いた後、唐突に彼が口を開いた。
「やっぱり、聡一君にはちゃんと話しておいた方が良いかも知れないな」
「え?」
振り向いた僕に、新藤先生は吸いかけの煙草を携帯用灰皿で消しながらゆっくりと話し始めた。
「香澄と俺は、別に恋人同士でも何でもない。ただの幼馴染だ」
「それって、どういう事ですか……?」
その突拍子も無い話に驚き、思わず聞き返さずにはおれなかった。
「彼女に頼まれたんだ。君に何か聞かれても、私達は付き合ってると答えて欲しいと」
困惑し黙り込む僕に、彼は続ける。
「君がもらったあの栞の花、何だか知ってるか」
「いえ、花とかは全然詳しくなくて」
「あれは忘れな草。その花言葉も名前の通り、私を忘れないで……この意味が分かるか?」

「本当は俺からこんな事を言うのはルール違反なのかも知れない。だが、これ以上辛そうにしているあいつの顔を、俺は見ていられない……」
そう前置きした新藤先生の口から語られた真実は、本当に衝撃的なものだった。
香澄さんは、一見元気そうに見えても実は心臓に抱えた持病が悪化し、体がもう長くは持たないだろうという事。
それは例え手術したとしても完治する可能性は限りなく低く、手術自体も成功する確立が低いうえ無闇に体力を消耗させるだけだという事。
そして、それを彼女自身も知っており、自分に好意を寄せてくれている人物を余計に悲しませないように態と嘘をつき、自ら遠ざけたという事。
だからあんな事を言って、自分への気持ちを諦めさせようと……
僕につきつけられたのは君の優しい嘘と残酷な現実とそして、この花に込められた淡い希望。
消え往くものが残される者に託した、たった一つの切なくも確かな願い。

「どうしたのっ!?」
荒々しく開かれた病室の扉に、香澄さんはそれこそ目を丸くして驚いている。
僕はそれに構わず中へ入るともう一度あの言葉を口にした。
「やっぱり好きですっ、香澄さんの事」
すると今度は驚きから困惑の表情に変わり、申し訳無さそうに答える。
「だから、それはこの前も言ったけど……」
「全部、聞きました。新藤先生から」
遮るように告げた僕の一言で全てを悟ったのか、彼女の表情が哀しげに曇る。
「政樹ったら、勝手に話すなんてずるいわよ」
「……ずるいのは香澄さんの方です!」
思わず語尾が強くなるものの、なるべく冷静さを保つように気を付けながら話を続けた。
「どうしてちゃんと言ってくれなかったんですか、本当の事……」
「言える訳無いわよ。好きって言ってくれる人に、私はもうすぐ死ぬから付き合えません、だなんて……」
目を逸らし一人呟くように答える彼女。
「それでも、例えすぐじゃなくても話して欲しかったです……」
俯いたままじっと自分の手を見詰める彼女の瞳からは、いつしか涙が零れ落ち始めていた。
僕は彼女のベッドへと腰掛けると、そっとその体を抱き寄せる。
「聞かせてください、告白の返事。本当の香澄さんの気持ち……」
すすり泣く香澄さんをなだめるように、その艶やかな髪を優しく撫でながらじっと彼女の言葉を待つ。
「私、もうじき居なくなっちゃうかも知れないんだよ?」
「それでも一緒に居たいです」
「病院からだって出られないかも知れないし、聡一君が望む事だって何もしてあげられないかも知れない」
「僕にとって、こうして香澄さんの傍に居る事が何よりの望みです」
何を言っても無駄と諦めたのか、彼女が再び黙り込む。
やがて涙も治まってきたのか、肩の震えが小さくなっている事に気が付く。
僕は背中に回していた手を静かに離し、彼女の体を腕の中から解放した。
そこで、ずっと気になっていたけれど今まで怖くて聞けなかった事を思い切って尋ねてみた。
「迷惑、ですか? 僕の事……」
「そんな事無いっ!」
不意に強く返されたその一言に驚き気味の僕の顔を、香澄さんがじっと見詰める。
「私も聡一君が好き。頭では駄目だって思ってても、貴方の事、好きになっちゃったの……」
切なそうに本心を打ち明けてくれた彼女の瞳はまた涙で潤んでいる。
「駄目なんて事、無いです。僕だって、香澄さんの事好きになったって、届くはず無いって……」
想い叶って感極まったのか、それとも単なるもらい泣きか。
いつの間にか僕も泣いていた。
「変なの。二人して泣いてるね」
それに気付いた彼女が、優しく微笑みかける。
「そうですね、振られた時でも泣かなかったのに……」
今度は私の番。そう言って背中に回された手が僕の体を引き寄せ、そのまま彼女の腕の中に収まる。
「本当に、こんな私でいいの?」
「香澄さんじゃなきゃ駄目なんです」
そこで僕はポケットからある物を取り出した。
「この花、忘れな草って言うんですね」
ここへ来る前、自分の病室へ立ち寄り取って来た青い一輪の忘れな草が押し花された栞。
香澄さんの想いが込められた大切な贈り物。
「忘れません。忘れられる訳、無いですよ。こんなにも一途に好きになれた人の事……」
顔だけを上げ、じっとお互いの目を見詰めあう。
「ありがとう……」
「こちらこそ」
そして、僕等はゆっくりと引かれ合うようにして唇を重ねたのだった……

この瞬間ほど、あんなにも強くこう願った事は無い。
――本当に、このまま時が止まってしまえばいいと……
 
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Date:2008/04/04
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