駄文置場

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□ 短編小説 □

 『again』

 
 駅から程近いホテルの1室、大広間に集まった大勢の人だかりの中、1人ポツンと部屋の片隅に陣取ってからどれくらい経つのだろうか。
「はぁ……やっぱり来なければ良かった、かな……」
グラスの中身をチビチビと飲みながら溜息を付くのも、もう何度目の事か分からない。

今から半月程前、唐突に届いた1通のハガキ。
そこに書かれていたのは、もう卒業して久しい高校の名とそれに続く“同窓会のご案内”という文字だった。
普通ならばそれを懐かしく思ったり、旧友との再会を楽しみにするのかも知れない。
でも僕がそこで抱いた感情は、煩わしさや疎ましさ、少なくとも気乗りする物では無かった事だけは確かだ。
だが、そこですんなり欠席と答えを出そうとした自分を、ある1つの思いがそれを踏み止まらせる。
かつての高校生時代、ずっと恋焦がれていた1人の少女。
結局、自分が不甲斐無いせいで肝心の想いすら伝える事が出来ないままに卒業を迎え、中途半端に終わった片思いでしか無かったが……
その子の存在が忘れられず、未だに心残りとなって何処かに引っかかっていたのだろう。
もし彼女に一目でも会えるのならば会ってみたい、と思った。
もちろん彼女が来る保証も無く今更会ってどうしたいという訳では無かったが、そのチャンスがあるのならばこれも良い機会なのかも知れない。
そんな思いから散々迷った挙句、返答期限ギリギリになってから出席との返事を出したのだった。

 そして迎えた当日。
司会が乾杯の音頭を取り終えると早々に僕は席を立ち、なるべく人気の少ない部屋の隅で適当に空いた席へと腰を下ろした。
時折顔を上げ一通り部屋の中を見渡してみては、変わらない事実にまた溜息が漏れる。
先程からこんな事を繰り返している原因はただ1つ。
肝心の最も会いたかったその人物の姿が、この場に無い事だ。
仕事でも忙しいのか、はたまた別の理由か。
誰に尋ねるでもなく勝手にそんな想像を廻らせては、手の中のグラスが空く度に近くのテーブルから拝借して来たビールを注ぎ足している。
「あれ、もう空か」
しばらくして、ビンの中身をほぼ1人で飲み干した頃だったろうか。
これ以上長居しても仕方が無いと席を立ちかけた時、不意に隣に誰かが立ち止まった気配と共に掛けられた女性のものらしき声。
「隣、いいかな?」
「ぇ? あぁ、どうぞ」
結局立ち上がり損ねた僕の隣へと、わざわざ小さく礼を言いつつ腰を下ろす女性。
「久し振り」
「うん……久し振り」
そう続けた彼女に何とも無愛想な反応を返す様が目に付いたのか、彼女は怪訝そうな顔付きで尋ねてくる。
「もしかして、私の事忘れちゃった?」
「いや、覚えてるよ。高校3年の時、同じクラスだった大野さん」
この答えに彼女は一転して明るい笑顔を浮かべた。
図星、とまではいかないまでも、正直な所、一瞬誰だか判らなかっただけにドキリとする質問だったのは確かだ。
彼女とはそれ程親しい間柄とは言えなかったかも知れないが、当時何かと周りから孤立し気味だった自分に声を掛けてくれた、数少ない友人と呼べる1人だった。
「どうしたの? こんな所で1人……」
「どうも、ああいう雰囲気は苦手でね」
そう言って目線で示した先、部屋の中央付近で集まり、異様な盛り上がりを見せている集団を横目に見ながら答える僕に、しばしその様子を眺めていた彼女は再び問い掛ける。
「じゃあ、今日はどうして来ようと思ったの?」
「えっ? うん。それは……どうしても、一目会ってみたかった人が居たんだ」
「そうなんだ。それで、その人にはもう会えたの?」
それに対し軽く首を横に振りつつ呟くように答える。
「いや。どうやら来てないみたいだ」
「そっか。それは残念、だね……」
まるで自分の事のように残念がって見える彼女の様子に、僕は思わず苦笑する。
「それより、君はいいの? こんな所で、こんな奴の相手をしていて」
「良いんじゃない? どうせ1人や2人居ない所で、あの人達には関係無さそうだし」
促されるままに再び部屋の中央へと目を向けた先で、もはや宴会騒ぎ状態へと突入しつつある連中が周りのグループをも巻き込み、輪を広げている様子が目に映った。
「なるほど。確かにそうかもね」
妙に納得した気分でついグラスを口に運び、それが空だった事を思い出す。
「あ、ちょっと待ってて」
そう言って席を立った彼女は、やがて新たなお酒のビンと共に適当に料理の盛られた皿を手にし戻って来た。
「折角だし、少しはお料理も食べておいた方がいいよ。それにお酒ばっかりは胃にも良くないしね」
「あぁ、ありがとう」
再びグラスに満たされたビールと、思いの他美味しかった料理の数々。
それらをつまみながら彼女と何気ない会話を交わすささやかな一時は、いつしか自分がここに残るのに十分な理由となっていた。
「でも、すぐに判ったよ古賀君の事」
「そう?」
僕は元々丸めたハムを止めていた爪楊枝でフライドポテトを1本刺しては食べる手を止め、彼女の話に耳を傾ける。
「雰囲気って言うか、後姿の感じとかかな」
「相変わらず暗いオーラでも漂ってた?」
「ん~、それはちょっと卑下し過ぎだけどね」
そう言って彼女はクスリと笑う。
「だけど、それでちょっと安心した。あぁ変わって無いなぁって」
「それは果たして喜んでいいのか悪いのか」
何とも複雑な心境ではあったものの、言うほど悪い気がしなかったのはきっと彼女が口にした安心という言葉のせいかも知れない。
「でも、大野さんは変わったね」
「え、そうかな?」
「うん。綺麗になった」
「あら、また上手い事言って。でも例えお世辞でも素直に受け取っておくわ、その言葉」
あながち単なるお世辞というつもりでも無かったが、そんな言葉が素直に口をついて出る程には酒が回り始めたのだろう。
フフフ、と照れたように笑う彼女の仕草が何とも大人びて見え、僕は思わずそんな彼女に目を奪われていた。
するとそれまで笑顔だった彼女の表情が不意に曇り顔を少しばかり俯かせる。
「実はね、私も1人逢いたかった人が居たんだけど、会えなかった」
「そうなんだ」
うん、と軽く頷き、そのまま何処へとも無く視線を落とす彼女。
その相手が誰かなど余計な詮索をする気は無く、僕もまた自然と黙り込む。
しばらくして再び顔を上げた彼女は、チラリと横目で見るようにこちらへと視線を投げ掛けた。
「だけど、それでも来て良かったって思ってる。そのお陰でこうして貴方と話が出来たから」
「それは、どうも……」
思いもしなかった彼女の言葉につい動揺し、ろくな返事が出来ずにいる僕を他所に、彼女はどこか物憂げな表情で独り言のように呟く。
「だからとは言わないけれど、こうして今話してたりする事でもし古賀君にも少しでも来て良かったって思って貰えたら、嬉しいんだけど、ね……」
「……そうだな。少なくとも来た甲斐はあった、かな」
「ありがと」
そうして再び柔らかな表情を見せる彼女に釣られるように、僕もまた自然と微笑を浮かべている事に気が付かされる。
こんな風に誰かと笑顔を交わす事など一体何年振りだろうか。
そんな事を考えていると、背後から彼女を名を呼ぶ別の女性の声が上がる。
「お友達がお呼びだよ」
彼女は後ろを振り返り声の主へと軽く手を上げて応えると、今度は僕へと顔を向けた。
「ねぇ一緒に行かない?」
「いや、それは遠慮しておくよ。どうやら僕の方はお呼びじゃない様だしね」
恐らく無理に連れてまで行く気は無いのだろう。
彼女はわざとらしく残念がって見せると静かに席を立つ。
「しょうがない。それじゃちょっと行って来ようかな」
見送る僕に「また後で」と言い残し、彼女は喧騒の輪の中へと混じって行った。
その直後、まるでタイミングを見計らっていたかのようにかつて仲の良かった級友が僕の下とやって来た。
「なぁ2人して何話してたんだ? 随分と楽しげに見えたけどよ」
「別に、他愛も無い世間話さ」
「何だよそれ、俺には教えられないってかぁ」
言いながら、まるでプロレス技でもかけるようにしがみ付いて来る友の腕に捕まり、ろくに身動きの取れない暑苦しい数分間が過ぎた後の事。
一頻り絡んで満足したのか、僕の下を離れた彼はまた別の級友へとちょっかいを出しに向かって行ったようだった。
「ふぅ」
開放感から出た溜息が、まるで重なるようなタイミングで背中からも聞こえ、僕は振り返る。
そこにはやはり彼女、大野さんが立っていた。
「おかえり」と迎える僕に向かい彼女はどこか呆れた様子で話し始めた。
「全く、人の事呼びつけておきながら結局当人達だけで盛り上がってるのって酷いと思わない?」
「あはは、確かにそれはあんまりだね」
「これならいっそ古賀君も引っ張っていけば良かったかなぁ」
「その様子じゃ、どうせ行った所で2人して同じ目に合っていただけだと思うけど」
「もぅ。もしまた呼ばれたら今度は腕組んででも連れてくんだから」
少し意地悪っぽく言い返す僕に、どこまで本気なのか、彼女はムスッと膨れて見せたかと思うと次の瞬間には自分でその仕草が可笑しかったのか、屈託の無い笑顔に変わる。
そんな彼女の横顔を見つめながら、僕は酷く懐かしい想いに駆られていた。

やがて時間は過ぎ、幸か不幸か結局彼女と腕を組む事は無いままに、同窓会は終わりを迎えようとしていた。
最後に当時の担任方の言葉や司会の閉めの挨拶を経てお開きとなった会場では、そのまま帰路に着く者と2次会だ何だと騒がしい者とが列を成し部屋を後にして行く。
なるべく人込みに紛れるのを避けようと粗方の人数が出払うのを待ちながら、ようやく僕は――いや、僕等は席を立った。
ホテルを出た後、駅へと向かう彼女を見送るべく僕達は人の波から離れ歩き出す。
「先生達、元気そうだったね」
「あぁ、うちの担任も相変わらずの体型だったし」
これは筋肉だ、が口癖だった我がクラスの担任教師は長い年月を経て尚変わらぬそのふくよかな体型で、今ではすっかりメタボな中年男性の仲間入りを果たしていた。
周りでそれを指摘する連中に対し、お決まりのセリフを放っては懐かしそうに笑う姿が遠巻きながら目に映る。
「卒業前に言ってたダイエット宣言はきっと残念な結果に終わったって事よね」
「ははは、それは禁句ってものだと思うよ?」
そんな事を話しながら並んで歩く時間はあっと言う間に過ぎて、僕達は駅へと到着した。
改札口の前に立ち彼女は振り返る。
「今日は楽しかった。これも、古賀君に会えたお陰かな」
「うん、僕も楽しかったし、今日君に会えて良かった」
確かに、最初は同窓会へ出席した事を後悔もしていた。
でも彼女、大野さんと再会し幾度と無く言葉を交わす内にいつしかその思いは消え、一緒に居る時間が楽しいとさえ感じるようになっていた。
でもそんな時間ももうすぐ終わってしまうのだ。
彼女は時刻を確認するべくバッグから携帯を取り出す。
携帯――そうだ、連絡先――
僕もまたいそいそとズボンのポケットから携帯を取り出すと、彼女へと声を掛けていた。
「あのさ、大野さん。良かったら――」
しかしそう言いかけたところで言葉を途切ると、手にした携帯を閉じる。
「いや何でも無い。もし、またいつか何処かで遇う事があったら、その時はまたゆっくり話でもしようよ」
「うん、楽しみにしてる」
自分が言いかけた事が何なのか、彼女は尋ねようとはしなかった。
また自らその続きを口にする事も……
「そろそろ行かなきゃ。それじゃ元気でね、古賀君」
「大野さんも体に気をつけて。じゃあ……」
改札を抜け駅のホームへと向かう直前、彼女は一度だけ振り返ると後姿を見送っていた僕に小さく手を振りながら微笑み、そして去って行った。
その時、照明を受けて僅かに光を放つ彼女の左手薬指に填められていたリング。
彼女が携帯を取り出した時になって初めて気が付き、別にそれを見たから思い止まったと言う訳でも無い。
ただ何となく、本当に何となくまた彼女とは会えるような気がして。
無論そんな確証などあるはずも無く、酔った頭で感じた錯覚に過ぎないかも知れないし、かつ頭の片隅では大事なチャンスを逃したんじゃないかって自覚もある。
でも“またいつか何処かで”なんて単なる口約束でも、再び誰かとそんな言葉を交わす事が出来たのが今はただ無性に嬉しくて。
駅からの帰り道、夜風に吹かれながら思う。
あの瞬間、彼女は僕が何を言おうとしたのか分かっていた筈だ。
それでも何も言わなかったのは、もしかしたら向こうもまた自分と同じ様に感じてくれていたのだろうか。
そんな随分と都合の良い解釈をしながら、程よく回ったアルコールと静かにそよぐ夜風の心地好さに酔い痴れるように、独り薄明かりの夜道を歩き続けるのだった……
 
 
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Date:2010/09/26
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