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□ 短編小説 お題ネタ □

  『君が望むなら何だって出来る気がしていたのにこんなにも僕は無力だ』

 
君と出会えてから、僕はほんの少しだけ強くなれた。
君が居てくれれば、どんな事にだって耐えて行けると思えた。
君が望むなら、何だって出来る気がしていたのに。
それなのに君は、そんな僕の前から唐突に居なくなろうとしている。
永遠の別れを告げて……
それほどまでに大切な、かけがえの無い存在だった君の命が消えて行こうとしている今も、僕には何も出来無い。
成す術も無く、確実に衰弱し少しずつ死へと向かう君を、ただじっと見守るしかない。
こんなにも僕は無力だ……

それは突然の悲劇だった。
アルバイトを終え帰宅途中、信号無視で突っ込んで来た飲酒運転の車に君が撥ねられたと聞かされたのは、今からほんの二時間程前。
幸いその事故を目撃した人の通報により、すぐさま救急車が到着。
全身を強く打ち混濁する意識の中身動き一つ取れない状態のまま、君は病院へと搬送されたらしい。
君を撥ねた運転手はそのまま逃走。しかしその直後、今度は別のトラックと正面衝突し車は大破。
警察の話では、運転手は辛うじて一命を取り留めたものの、今だ意識不明の重体だそうだ。
いっそそのまま死んでしまえば良かったのに、と後になって思うのかも知れない。
でもこの時の僕は、そんな事すらどうでもよくなる程に、ただ君の事で頭が一杯だった。

気が付くと、僕は今にも止まってしまいそうなほどか弱く呼吸をする君の手を、まるで何かにすがるように強く握り締めていた。
だが、無常にもその時はほどなくして訪れた。
辛うじて動きを保っていた心臓もやがてゆっくりとその役目を終え、止まった。
同時に、身体に繋がれた電子機器から甲高い電子音が一定の音程を保ちながら鳴り響き続け、その時が、彼女の命が終りを迎えた事を告げる。
それでも僕は君の手を離そうとは、いや、離す事が出来なかった。
まるで、まだ仄かに残る温もりを記憶に焼き付けるかのように……

一体どれほどの時間そうしていたのだろうか。
辺りは既に静寂を取り戻し、一緒に君の最後を看取った医師や、僕に気を使ってくれたのだろうか、ご両親も席を外していた。
部屋の中には、君と僕の二人きりだった。
僕はポケットから一つの小さな箱を取り出すと、そっと蓋を開ける。
そこに並べて納められた二つの指輪。
シンプルな作りながらも一つは赤、もう一つには青い宝石が中央にはめ込まれた同じデザイン
のペアリング。
その片方、赤いルビーのはめ込まれた指輪を取り出すと、それをそっと彼女の左手薬指にはめる。
「やっぱり、よく似合ってる……」
もうじき迫ったクリスマスのプレゼント用にと、二人で考えたオーダーメイドの物だ。
僕は箱に残った青いサファイアの指輪も取り出し、同じく自分の左手薬指へとはめた。
男にしては細い方とはいえ、やはり君のような白くほっそりとした指とは違い少し浮いて見える。
君ならそれを見て、少し笑いながら似合ってる、と言ってくれたろうか。
空になった小箱を再びポケットへと納めながら、じっと君の顔を見詰める。
まるで眠っているかのように穏やかな表情。
既に冷たくなってしまった君の手に自分の手を重ねながら、僕は最後の口づけをした。

その後、屋上へ向かった僕は到着するなりその場にへたり込んだ。
どうやら、流石にそろそろ限界らしい。
壁にもたれかかるようにして背を預け、空を仰ぎ見る。
もうすっかり日は落ち、空には綺麗な三日月が浮かんでいる。
時折吹く夜風が優しく頬を撫でてゆく。
次の瞬間、僕は泣いていた。
今まで必死に押さえ込んでいた衝動に任せるまま、とめどなく溢れてくる涙を堪えようともせず声を上げて泣き続けた。
それが精一杯だった。
君を失った事実、もうこの世には居ないのだという残酷な現実はきっとこれから幾らでも思い知らされるのだろう。
それでも今の僕には、心を支配するどうしようもない無力感と君の死という抱えきれない悲しみに苛まれ、ただ涙を流す事しか出来ずにいた……
 
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Date:2008/04/04
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